母・のりこさん
母・のりこさん
六年生の君へ
大人になるまでにいつか話そうと思っていたことがあります。
先生がくださったこの機会に君にうちあけることにしました。大切に聞いてください。
もうすぐ12歳になる君…自分の選択を何でも相談してきた君が、最近違ってきたことを感じています。自我(物事に対する考え、自分自身に対する意識)が芽生え、時にはお母さんの言葉を腑に落ちない(納得いかない)表情で聞く様子に気付きます。
でもね、「お母さんは俺を一番おこる」…と思わないで。
君の寝顔をたまに見つめることがあるの。その時、お母さんは、いつも胸がいっぱいになって、必ずあることを思い出します。それは、この先もずっと忘れない、苦い思い出。
一年生の早いうちからサッカーを始め、Aチームでプレイを楽しんだ。二・三年生で後から始めた子にどんどん追い抜かれ、Bチームで泣いたね。四年生ではほとんどベンチ。
試合で一歩もコートに足を踏み入れることの無い日も、お弁当をきれいに食べてくれた。
集合の声が掛かると、慣れた手順で救急箱を持ち、控え選手用のビブスを身に付ける。皆の一番うしろを歩いてコートに向かう。
あなたの小さな背中をみつめ、(今日もベンチか…)そう思うとお母さんは、喉がキュッと詰まってツーンと痛くなり、涙がこぼれない様に空を見上げてた。
出場チャンスの無かった大会での優勝、覚えてるかな。
「お母さん、お弁当ありがとう、試合でられなくてごめんね」
そう言いながら、お母さんの首に金メダルを掛けてくれました。もう涙をとめることは出来なかったよ。ベンチで誰よりも大きな声援で、試合に参加するあなたは立派でした。この手紙を書いてる今も、喉がツーンとしてくるよ。何故か穏やかな寝顔を見てると思い出すんだ。辛い思いをしたであろう日も、大きくなった今も、寝顔はあの頃と変わらないからなのかもね。
遠まわりしたけど、良い道を通って来れたと思う。諦めずによく頑張ってきたね。
悔しさは成長のステップになり、心の痛みは思いやりを育ててくれる。
“何で俺だけ…”と腐らず、自分の為にのりこえて のりこえて…。
そんなあなたを見守っていられることが、私達家族の喜びです。
おこるとこわいお母さんだけど、心から君を愛しています。
これからも宜しくね。
母 のりこ
日本放送のラジオ番組で朗読された「ちいさなあなたへ」を偶然 拝聴しました。
涙があふれてきました。とても深く、大切にしたい気持ちが詰まっていました。
(略)
今回のキャンペーンの案内を見て、息子が小学生だった頃に、息子に宛てて書いた手紙を思い出し、机の奥の方に封印するようにしまわれたそれを引っ張り出しました。
小学生だった息子は当時、手紙を読み終わると言いました。「お母さん、ありがとう。でもこの手紙、読むと悲しくなるから机の奥にしまっておくね」…と。
その時の気持ち、うまく言葉では表せませんが、胸にズーンと突き刺さった気がします。小さな我が子が、辛いのに無理して頑張って、有難うと私に言ったことは、嬉しいどころか申し訳なさでいっぱいでした。小さいながらに「辛い自分を親に悟られまいと振る舞っていたのに、親にかわいそうと思わせてしまった」…そんな感情でも抱いたのでしょうか。
大人になり、親になることがあるならば、成長した息子は今度はどんな気持ちでこの手紙を読むのでしょうか。いつ机の奥から手紙を出すのでしょうか。
その日が来ることを願いながら「ちいさなあなたへ」の絵本を添えて、今回私が引っ張り出した手紙をまた奥に奥にしまっておこうと思います。
(郵送で応募)